あなたの人生の物語/テッド・チャン Stories of Your Life and Others / Ted Chiang

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

SF、しかも翻訳物はなかなかのめり込めないケースが多いのですが、この作品「あなたの人生の物語」は全く逆でした。
また時間の無駄になったら嫌だなと思いながら手に取ったのですが、毛色の異なる8つの短編全て、読み始めると一気にその世界に引き込まれ、読んでしまっていたのです。
というのも普通のSFと異なり「社会的な問題」や「人間の本質的な問題」をテーマにした作品だったためでしょうね。
単なるエンターテイメントもよいのですが、それよりも、読んだ後いろいろと考え、現実世界へよい影響を与えるような作品のほうにより興味を抱くからだと思います。
特に収録されていた作品の「Understand / 理解」については、思いつくことが多くありました。


真の大人に必要な要素のひとつとして「自身を客体視する能力」があるといつも思っています。
この作品には、脳の損傷をきっかけとして、薬の投与により原状以上に脳のニューロンシナプスが高度に連結し合い、人間を超えた知的生命体へと進化する人が出てきます。
自身の精神活動を、脳内化学物質の分泌レベルまでモニタできる能力が備わり、自分のコントロールは思いのまま。ここまでのメタ意識、メタ認識をもてるのは凄すぎます。
しかし、メタ意識、メタ認識は低レベルでもOKなので、人間は皆持つ必要があるんですよね。
自身を客体視し、よい点・まだまだな点を認識し、よりよい自分を目指すことが求められます。
難しいことではないのに、これができていない大人の何と多いことか・・・
ワイドショーなんて喜んで観ているような人間の話を聞くとウンザリします。
メディアの情報やコメントをそのままリピートしているだけですからね。
自分がいつも正しいと思ってるんでしょうね・・・メディアや他人に振り回されているだけなのに・・・


さて、そんなことを考えたりしながら、全ての短編を読みました。
各短編が世間的にもいろいろな賞を受賞しているようですから、勿論作品の質も高いのでしょうけど「ひょっとして翻訳者がよかったのでは?」とふと考えました。
訳者のことはこれまで気にしたことがなかったのですが、翻訳物に珍しく読みはまったので、作品の質以外にも原因があるのではと思い、少し調べてみました。

表題作「あなたの人生の物語」の翻訳者は、公手成幸氏。
どうして未来を過去のように話すのかととても不思議に思いながら読んだ作品です。
もう一度読みたくなる作品でした。翻訳も違和感なく読むことができました。
amazon:公手成幸
おお、スティーヴン・ハンター氏の小説の翻訳もしてるんですね。おもしろいと評判ですよね。

その他の作品の訳者は、浅倉久志氏、嶋田洋一氏、古沢嘉通氏。
amazon:浅倉久志
とても有名な方のようですね。無知でした・・・
訳した作品としては、アンドロイドは電気羊の夢を見るか? 、世界の中心で愛を叫んだけもの等、超有名な作品が多々ありますね。一度読んでみねば。
amazon:嶋田洋一
うーん、知らない本ばかりですね・・・
amazon:古沢嘉通
おお、マイクル・コナリー氏の訳者でしたか。わが心臓の痛みはおもしろかったです。

これだけではよく分からないので、彼らが翻訳した作品をまたいくつか読んでみたいと思います。
いずれにせよ、この短編集は大人には必読ですね。
メタ意識のことだけでなく、宗教のことや、メディアのこと等、いろいろと考えさせられます。
もしジャンルを決めるなら「社会派SF」とかかも。
そんなのあるのかな(笑)