失われた私 多重人格 シビルの記録

失われた私 (ハヤカワ文庫 NF (35))

失われた私 (ハヤカワ文庫 NF (35))

ノンフィクションです。
多重人格者の実例が少なかった時代に、精神科医によって多重人格と判断され(しかも17の人格を持っていた)、治療によって様々な困難、よくなったり悪くなったりを繰り返しながら、10数年をかけて一つの人格へと統合されていく話。
淡々としていてほとんど盛り上がりもなし。この潔さよ。
エンターテイメント好きな人には、きっとこの600ページは耐えられないと思う。
しかし、その淡々としているが故にリアリティがあり、ネタとして「多重人格」を使っている物語とは全く違う、格というか品というか、とても気高い印象を受ける。まじめに心や精神について興味を持っている方は、きっと読んでよかったと思いますよ。


この主人公シビルは、親の様々な虐待により、それから自分の身を守るために別人格を生み出してしまっていた。子どもにとっての親の影響力の大きさは絶大。それは絶対的な存在。どうやっても逆らえない。
この悪い影響が、大人に成長した後も、まるで先天的な病気化のように、治しようのないほど固定化していて、一生つきまとうような影響となってしまう。
この本を読みながら浮かんだのは私の妻。
彼女は家族にも他人にも優しく、何事も一生懸命で、とてもいい人間である。しかし、幼少の頃の両親の育て方の影響で、親の顔色を常に気にする人間になった。未だに「親に何か言われるのが怖い」と言うのだ。場合によっては泣いてしまうこともある。
「気にしないようにすればいいよ」
かつて私はそう言った。それは簡単なことだ、と。
でも、彼女はそれが全然できない。そう、頭では無視すればいいと理解していても、子どもの頃から染みついた行動パターンは変えることができないのだ。
恐ろしいと思った。
自分の子どもは、絶対にこうならないよう意識して、妻と一緒に育てている。


読む価値のある作品だった。

失われた私 (ハヤカワ文庫 NF (35))

失われた私 (ハヤカワ文庫 NF (35))