自分が成長するのって楽しいよ

先週の月曜日の朝、普通にデスクで仕事を始めていたら、10時頃に別の部署の管理職から「ちょっと来てくれない?」と声をかけられた。
深刻そうな声色で、いい話ではなさそうだなと思いながら会議室へ行くと、そこにいたのはその彼の部下。物流部門でフォークリフトを運転している社員(40歳前半)である。

「どうしたら給料あがるんですか?」

人事担当へ直談判かと思いきや、そうではなく、本当にどうすれば自分の賃金が上がるのか知りたいらしいのだ。

「今のままじゃ貯金を取り崩すばかりです。家のローンもあるし、家族4人、食べていけないんです」

彼は昨年、別の会社から転職した人で、今年非正規社員より準社員へ昇格したところ。順調に来年正社員へ昇格すれば問題ないだろうが、現時点では確かに彼の賃金は一家4人を食べさせて行くには最低限しかない。これと同じくらいだ。ここは田舎だが、それでも確かにぎりぎりの生活だ。
当たり前のことを話しても意味がないと思ったが、賃金が上がる方法は当たり前の方法しかなく、それを本人へ説明した。

  • 日々いい仕事をして、早期に正社員へ昇格
  • 夜勤のある部署への異動(深夜勤務手当が出る)
  • 物流に関する有用な資格を取る、スキルを磨く、英会話できるようにする、などをして下克上する(この会社はこれが十分可能)
  • 自分をより高く買ってくれる企業へ転職する
  • 奥さんも働く(収入は倍になる)

本人にがんばってもらうしかないんだと思いながら、説明していくと、本人から驚くような発言があった。

フォークリフト手当とかつくれないんですか?」
「は!?」

横にいた上司も唖然。

フォークリフトの運転は危険なんです。だから手当を支給してもいいと思うんです」
「うーん、では訊きますけど、あなたが社長だったらその手当を出しますか?」
「会社が儲かってるんだったら出します」
「この会社は儲かっていませんよ」
「でも(フォークの運転は)危険なんです」
フォークリフトの運転は採用の際「必須」でお話ししていた筈です。免許を持っている前提で賃金を決定していて、これはすでに織り込み済みですよ」
「じゃあ、他の手当はないんですか。」

おいおい、手当の乱発か?

さすがにこのままではらちがあかないと思い、

「賃金ってどうやって決まっていると思います?」
「・・・」
「この会社の場合、転職者がほとんどなので、その人の市場価値と当社の賃金水準で決まるんです。例えば○○部の○○さんが座っている椅子がありますよね、あの椅子に値段がついている感じです。役割に値段がついているんです。勿論、同じ役割でも初心者と熟練者がいますので、値段の幅はありますけどね。
だから賃金を上げるには市場価値の高い、言い換えれば希少価値のある難しい仕事に就くしかないんです。昔みたいに単純労働でも年をとれば賃金が上がるというのは難しいです。きっと他の会社でも多かれ少なかれ同じ状況だと思いますよ。
○○さんも、そういう仕事ができるように努力するしかないですよ」
「でも、努力してもその仕事に就けるかどうかは分からないでしょ?」
「確かに、そのポジションがいつ空くかは分かりませんね」
「だったら、意味がないです」
「いや、その人以上のスキルを身につければ、交代できますよ。現実問題としてそのポジションが難しいとしても、今の○○さんの上司のポジションであれば、今の仕事がしっかりやっていって、併せて英語の勉強をして話せるようになれば確実に下克上ですよ」

横にいた下克上先の当の上司は苦笑いしていたが、これは本当であって、チャンスはちゃんとあるよと感じてもらえると思った。
しかし、

「無理です」
「でも、それで無理というなら、とりあえずはしっかりと仕事をして早く正社員になるしかないですね」
「でも、この間先輩が昇格試験に落ちたので心配してるんです」
「先輩は先輩、○○さんは○○さんですよ」
「でも、他の部署の人は合格したのに、自分の部署は(受験した)二人とも不合格だったので」
「他の部署も合格したのは一部ですよ」
「でも、コネで受かったって噂が流れてて・・・」

彼のウダウダ加減にだんだんイライラしてきたが、ぐっとこらえて、

「じゃあ、あなたの上司に毎月ビールでも送ってみたらどうです。いいコネができますよ。でも、それで合格すると思いますか?」
「・・・いえ、思いません」
「でしょ? 合格した彼は部署内の同僚・上司からの信頼も厚く、論文試験でもいい内容を書いていました。そして面接試験でも正社員として期待以上の回答をしてくれました。だから合格したんです。正社員として十分と判断されたからですよ。○○さんもしっかり仕事をしていれば、ちゃんと合格できますよ」
「でも、この間○○さん、最初私と同じ臨時社員として採用されて、その後一度退職したのに、先日今度は正社員として入社してきましたよね。あれはいかがなものかと」

次から次へと、彼のウダウダにもう切れそう・・・

「彼は、元々日○通運の係長だったのはご存じですよね。とてもハイスキルな方です。最初入社した時は彼の経験とは全く関係のない製造現場の仕事に就いたので臨時社員としての処遇でした。でも今回は彼の経験の延長上の仕事で入社し、しかもハイスキルだったので最初から正社員として処遇しました。転職市場では至極当然のことです。それをいかがなものかと言うのであれば、○○さんも一度辞めてみたらどうですか? それでもう一度採用されると思いますか」
「思いません・・・」

おいおい・・・・

「じゃあ、夜勤のある部署へ異動したいですか」
「それは嫌です」
「だったらやはり努力して、仕事で結果を出して、早く上に上がるしかないですよ」
「やっぱり手当とか無理ですか?」

また手当か!?

「当社の状況では不可能です」
「事業場長に、今のこの苦しい状況を分かってほしいんですよ」
「家族が多いからといって賃金を上げるのは不公平だと思いませんか。それなら生活保護がありますよ」
「事業場長に手紙を書いてもいいですか。この苦しい状況を知ってほしいんです」
「勿論それは自由です。書いていいですよ。でも、もし○○さんが事業場長だったとして、そんな手紙が届いたらどう思いますか」
「苦しいんだなぁと思います」
「私は、その手紙を見て「なんだこれは!? どういうつもりだ」と思われ、○○さんの評価が下がることを恐れます。出すのは自由ですが、出す前によく考えてくださいね」
「でも、何もせずにいたくないんです」

「だったら手紙なんて書かずに、仕事上の努力をすればいいじゃないですか!」と言いたくなったが、もう堪えた。これは何を言っても無駄だなと思った。
努力もせず、結果も出さず、異動もせず、苦労や嫌なことはせず、今の仕事をただ漫然とやっているだけで給料が上がると思ってるのか。思ってないだろうけど、それはしたくないから、別の楽な方法ばかり追い求めている。
この人はこの人なりにいいところは勿論ある。回りに優しく、不正はしない。いい人だと思う。でも仕事人としてはあまりにレベルが低い。
宗教家ならそれでもいいかもしれないが、仕事人としてはこれでは未来は暗い。どうしてこうなったのか。


きっと、社会人・仕事人としての水準を上げる必要性を感じたことがないんだろうと思う。
「どんな状況になろうとも、この世をよりよく生き抜く(survive)ことのできるスキル」これが社会人には必ず必要だ。
「知識を十分に集めインプットし、その上で自分なりに深く考え、判断し、行動すること」この行動特性が、遅くとも社会人になって10年目辺りまでに身についていないと、その後、社会人としての人生は厳しいものになる。自分で自分の人生を選択できず、回りに流されるか、生きてはいるけど最下流を彷徨うか・・・
これは教えられて身につくものではなく、自身がその必要性というか、当たり前性を感じて、行動を起こさなくては身につかないものだ。
それを感じるのは、会社の上司や同僚、本や映画から影響を受けてというケースが一番多いと思う。それがきっかけとなり、行動が次第に変わっていく。


「派遣ばかりだから、人を育てることがなくなった」という感情的なコメントを聞くこともあるが、統計データを読むと必ずしもそうではない。
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男性の場合、派遣社員等の非正規雇用率の増加は、この20年間で8%→18%と約10%。人数としては約350万人の増加と非常に多いが、比率としてはメディアで叫ばれているほどは増加していない。昔も、男性であっても非正規雇用社員は結構いた。
今も昔も大して変わっていない。ただ、日本が成熟し、低成長の社会へと変わってきただけなのだ。
しかしこの変化は大きい。低経済成長では「将来かなりいい給料を上げるから今は安いけど我慢してね」というみんな一緒の年功序列システムでは、みんな低成長・低賃金になってしまう。これでは、野望のある若手社員を満足・納得させられるほどの賃上げや将来賃金は約束できない。
このため、「年をとるだけで日本と一緒にみんな高成長(賃金アップ)」システムは諦めざるを得ず、「自分自身の力で勝ち取らなくては」各自が望むような成長できなくなった。
変化する環境に適応できなくては生き残れないのは、昔っからの自然の摂理。恐竜のままではやっぱりいずれ死滅してしまう。
食べることにすら困るような戦争時代よりは絶対幸せなはず。社会人は、皆、今の時代に生まれたことを嘆くのではなく、それはそれとして、この時代を理解して、適応してけばいいだけなのだ。
「知識を十分に集めインプットし、その上で自分なりに深く考え、判断し、行動すること」これが当たり前になり、自ら学ぶ人間になると、人生は楽になる。進歩する自分がとても楽しくなる。好きなことをして上手になっていくのは楽しいでしょ? 仕事も同じ。エンジョイしましょう。


仕事といえば、人事や総務の仕事をしていて、様々な行政の方と知り合う機会があり、今度、7月に高校3年生へ、10月に小学5,6年生へリアルな仕事について話してもらえないかという依頼をいただいた。信頼してくださっていることがとても嬉しく、私で力になれればと二つ返事で引き受けた。
基本的には実際の仕事の話と、社会のみんなの役に立つことが仕事であること、その仕事を通して人間として成長していくこと、それは好きなことやって楽しくなることと同じ、こんなことを話そうと思っている。
しかし、学生にそのまま話してもそう簡単に伝わるとは思えないので、どうやったら少しでもうまく伝わるか、イラストを使おうか、寸劇でもしようか等といろいろと考えている。
自分の子どもはまだ小学生と保育園生だが、彼らにも少しずつ人としての成長の必要性と楽しさを実感してもらえるよう、生活しながら伝えていきたい。